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style="font-size:15px;"> 「金田って人を知ってるか」と主人は無雑作《むぞうさ》に迷亭に聞く。「知ってるとも、金田さんは僕の伯父の友達だ。この間なんざ園遊会へおいでになった」と迷亭は真面目な返事をする。「へえ、君の伯父さんてえな誰だい」「牧山男爵《まきやまだんしゃく》さ」と迷亭はいよいよ真面目である。主人が何か云おうとして云わぬ先に、鼻子は急に向き直って迷亭の方を見る。迷亭は大島紬《おおしまつむぎ》に古渡更紗《こわたりさらさ》か何か重ねてすましている。「おや、あなたが牧山様の――何でいらっしゃいますか、ちっとも存じませんで、はなはだ失礼を致しました。牧山様には始終御世話になると、宿《やど》で毎々|御噂《おうわさ》を致しております」と急に叮嚀《ていねい》な言葉使をして、おまけに御辞儀までする、迷亭は「へええ何、ハハハハ」と笑っている。主人はあっ気《け》に取られて無言で二人を見ている。「たしか娘の縁辺《えんぺん》の事につきましてもいろいろ牧山さまへ御心配を願いましたそうで……」「へえ
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