Название: 羅生門 他 / Ворота Расемон и другие рассказы. Книга для чтения на японском языке
Автор: Рюноскэ Акутагава
Издательство: КАРО
Жанр: Классическая проза
Серия: 近現代文学
isbn: 978-5-9925-1521-3
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–―そら、そこへ逃げた。
–―逃がすな。逃がすな。
騒擾。女はみな悲鳴をあげてにげる。兵卒は足跡をたずねて、そこここを追いまわる。灯が消えて舞台が暗くなる。
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AとB とマントルを着て出てくる。反対の方向から黒い覆面をした男が来る。うす暗がり。
AとB そこにいるのは誰だ。
男 お前たちだって己《おれ》の声をきき忘れはしないだろう。
AとB 誰だ。
男 己は死だ。
AとB 死?
男 そんなに驚くことはない。己は昔もいた。今もいる。これからもいるだろう。事によると「いる」と云えるのは己ばかりかも知れない。
A お前は何の用があって来たのだ。
男 己の用はいつも一つしかない筈だが。
B その用で来たのか。ああその用で来たのか。
A うんその用で来たのか。己はお前を待っていた。今こそお前の顔が見られるだろう。さあ己の命をとってくれ。
男 (Bに)お前も己の来るのを待っていたか。
B いや、己はお前なぞ待ってはいない。己は生きたいのだ。どうか己にもう少し生を味わせてくれ。己はまだ若い。己の脈管にはまだ暖い血が流れている。どうか己にもう少し己の生活を楽ませてくれ。
男 お前も己が一度も歎願に動かされた事のないのを知っているだろう。
B (絶望して)どうしても己は死ななければならないのか。ああどうしても己は死ななければならないのか。
男 お前は物心がつくと死んでいたのも同じ事だ。今まで太陽を仰ぐことが出来たのは己の慈悲だと思うがいい。
B それは己ばかりではない。生まれる時に死を負って来るのはすべての人間の運命だ。
男 己はそんな意味でそう云ったのではない。お前は今日まで己を忘れていたろう。己の呼吸を聞かずにいたろう。お前はすべての欺罔《ぎもう》を破ろうとして快楽を求めながら、お前の求めた快楽その物がやはり欺罔にすぎないのを知らなかった。お前が己を忘れた時、お前の霊魂は飢えていた。飢えた霊魂は常に己を求める。お前は己を避けようとしてかえって己を招いたのだ。
B ああ。
男 己はすべてを亡ぼすものではない。すべてを生むものだ。お前はすべての母なる己を忘れていた。己を忘れるのは生を忘れるのだ。生を忘れた者は亡びなければならないぞ。
B ああ。(仆れて死ぬ。)
男 (笑う)莫迦《ばか》な奴だ。(Aに)怖がることはない。もっと此方《こっち》へ来るがいい。
A 己は待っている。己は怖がるような臆病者ではない。
男 お前は己の顔をみたがっていたな。もう夜もあけるだろう。よく己の顔を見るがいい。
A その顔がお前か?己はお前の顔がそんなに美しいとは思わなかった。
男 己はお前の命をとりに来たのではない。
A いや己は待っている。己はお前のほかに何も知らない人間だ。己は命を持っていても仕方ない人間だ。己の命をとってくれ。そして己の苦しみを助けてくれ。
第三の声 莫迦《ばか》な事を云うな。よく己の顔をみろ。お前の命をたすけたのはお前が己を忘れなかったからだ。しかし己はすべてのお前の行為を是認してはいない。よく己の顔を見ろ。お前の誤りがわかったか。これからも生きられるかどうかはお前の努力次第だ。
Aの声 己にはお前の顔がだんだん若くなってゆくのが見える。
第三の声 СКАЧАТЬ