Название: 羅生門 他 / Ворота Расемон и другие рассказы. Книга для чтения на японском языке
Автор: Рюноскэ Акутагава
Издательство: КАРО
Жанр: Классическая проза
Серия: 近現代文学
isbn: 978-5-9925-1521-3
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下人は、太刀を鞘《さや》におさめて、その太刀の柄《つか》を左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰《にきび》を気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、饑死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの男の心もちから云えば、饑死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。
「きっと、そうか。」
老婆の話が完《おわ》ると、下人は嘲《あざけ》るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰《にきび》から離して、老婆の襟上《えりがみ》をつかみながら、噛みつくようにこう云った。
「では、己《おれ》が引剥《ひはぎ》をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色《ひわだいろ》の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪《しらが》を倒《さかさま》にして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々《こくとうとう》たる夜があるばかりである。
下人の行方《ゆくえ》は、誰も知らない。
青年と死
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すべて背景を用いない。宦官《かんがん》が二人話しながら出て来る。
–―今月も生み月になっている妃《きさき》が六人いるのですからね。身重《みおも》になっているのを勘定したら何十人いるかわかりませんよ。
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