吾輩は猫である / Ваш покорный слуга кот. Книга для чтения на японском языке. Сосэки Нацумэ
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Читать онлайн книгу 吾輩は猫である / Ваш покорный слуга кот. Книга для чтения на японском языке - Сосэки Нацумэ страница 4

СКАЧАТЬ ノの話《はな》しが出たから僕はあれは歴史小説の中《うち》で白眉《はくび》である。ことに女主人公が死ぬところは鬼気《きき》人を襲うようだと評したら、僕の向うに坐っている知らんと云った事のない先生が、そうそうあすこは実に名文だといった。それで僕はこの男もやはり僕同様この小説を読んでおらないという事を知った」神経胃弱性の主人は眼を丸くして問いかけた。「そんな出鱈目《でたらめ》をいってもし相手が読んでいたらどうするつもりだ」あたかも人を欺《あざむ》くのは差支《さしつかえ》ない、ただ化《ばけ》の皮《かわ》があらわれた時は困るじゃないかと感じたもののごとくである。美学者は少しも動じない。「なにその時《とき》ゃ別の本と間違えたとか何とか云うばかりさ」と云ってけらけら笑っている。この美学者は金縁の眼鏡は掛けているがその性質が車屋の黒に似たところがある。主人は黙って日の出を輪に吹いて吾輩にはそんな勇気はないと云わんばかりの顔をしている。美学者はそれだから画《え》をかいても駄目だという目付で「しかし冗談《じょうだん》は冗談だが画というものは実際むずかしいものだよ、レオナルド・ダ・ヴィンチは門下生に寺院の壁のしみを写せと教えた事があるそうだ。なるほど雪隠《せついん》などに這入《はい》って雨の漏る壁を余念なく眺めていると、なかなかうまい模様画が自然に出来ているぜ。君注意して写生して見給えきっと面白いものが出来るから」「また欺《だま》すのだろう」「いえこれだけはたしかだよ。実際奇警な語じゃないか、ダ・ヴィンチでもいいそうな事だあね」「なるほど奇警には相違ないな」と主人は半分降参をした。しかし彼はまだ雪隠で写生はせぬようだ。

      車屋の黒はその後《ご》跛《びっこ》になった。彼の光沢ある毛は漸々《だんだん》色が褪《さ》めて抜けて来る。吾輩が琥珀《こはく》よりも美しいと評した彼の眼には眼脂《めやに》が一杯たまっている。ことに著るしく吾輩の注意を惹《ひ》いたのは彼の元気の消沈とその体格の悪くなった事である。吾輩が例の茶園《ちゃえん》で彼に逢った最後の日、どうだと云って尋ねたら「いたちの最後屁《さいごっぺ》と肴屋《さかなや》の天秤棒《てんびんぼう》には懲々《こりごり》だ」といった。

      赤松の間に二三段の紅《こう》を綴った紅葉《こうよう》は昔《むか》しの夢のごとく散ってつくばいに近く代る代る花弁《はなびら》をこぼした紅白《こうはく》の山茶花《さざんか》も残りなく落ち尽した。三間半の南向の椽側に冬の日脚が早く傾いて木枯《こがらし》の吹かない日はほとんど稀《まれ》になってから吾輩の昼寝の時間も狭《せば》められたような気がする。

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